⑫信じてないよ

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「うん。俺は構わないよ。でも古そうなカフェだね。営業はしているようだから行ってみよう」  男二人が決めた方向へと進み出すと、もう千歳の足は普通に歩き出していた。  歩道を歩いている途中、小雪の中、長谷川社長がまだ怪訝そうな目つきで千歳を見ている。 「なんかのお告げ? 店先に来るまでわからなかったけれど、確かに落ち着きなさそうだったもんな。俺もいちいちレビューの点数は気にはしないけれど、ひとまず高い点だったから目星をつけておいたんだけれど」 「せっかく社長自らお調べくださったのに。申し訳ありません」 「いや、いいよ。ってかさ。ああいうこと、千歳ちゃんの身にはしょっちゅう起きているわけ?」 「福神様って呼んでいるんですけれど」 「福神様?」 「私の夢に現れた時、恵比寿様のようなお姿で海の上にいらっしゃったので」 「ほほう?」  朋重と共に千歳と並んで歩いている社長が、まだまだ怪しいものを探るような猜疑心に満ちた目線で見下ろしている。千歳も肩をすくめて焦る。変なことを言う、変なことを信じている、実家のしきたりや祖母のマインドコントロールの成れの果てとか思われてる? 「初めてその神様が現れた時は、千歳ちゃんは何歳だった?」 「六歳、です」 「その神様、なんて言って現れた?」 「えっと、笑わないでくださいね」 「かまわないよ」  そこで黙って歩いていた朋重だけが、先にふっと笑い出した。  夫である彼には、結婚生活を始めてから正直に福神様との思い出をたくさん語っているから、彼はもう知っているのだ。  そんな千歳と福神様の出会いは。 「あなたのとこのおはぎが好きなんよ――でした」 「はあ?」
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