⑫信じてないよ

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「私も、実家荻野製菓のおはぎが大好物なんですけれど。それは福神様が現れてからなんです。たぶん、私が食べてお喜びになっているんだと思います」 「へえ……そうなんだ……」  ほら、まともな大人はそうして白けた様子を見せるし、受け入れがたいに決まっている。もしや、ここから伊万里を実家から引き離そうとか考えを変えたりされる? 祖母と父がいないところで、余計なことを言わないほうがいいかと千歳も混乱中。でも、神様審判を受け入れてくれたうえに、神様がついているとすでに伊万里が説明済みだから、千歳もここでのらりくらり避けたら不誠実に思えて、これまた判断に苛むばかり。  そのうちに信号がある横断歩道を二つ渡り、角を曲がって数軒のところに構えているカフェに到着。  今度はかなり古びている佇まい。二階建ての北国古民家風で、一階が店舗。欅の扉は重々しくがっしりと閉じられていて、営業しているかどうかもわからないが、営業中の札がドアノブにかけられているだけだった。  古いな地味だなあという第一印象。でも千歳は懐かしい思いをかんじたのだ。しかももう立っているここで珈琲の薫りがそこはかとなく漂っている。 「お、よさそうだな。俺は好きだな、こういうかんじの。年齢のせいかな」 「いえ。僕も好きですねこのかんじ。目立たないところにありますけれど、長年続いてきたかんじですね」 「うむ。よし、入ろう!」  そこでまた長谷川社長が千歳をじっとりと疑り深い目を向けて、足下へと見下ろした。朋重もだった。おなじことが起きるか起きないか。  千歳も恐る恐る一歩を踏み出したが、ちゃんと動いた。  男二人がほっとして、朋重が気を利かせて重い木のドアを開ける。 「いらっしゃいませ」
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