⑬お嬢さんこちら、ご縁の成る方へ

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⑬お嬢さんこちら、ご縁の成る方へ

 長谷川社長がせっかく目星を付けてくれていたカフェに入店しようとしたら千歳の身体が謎の拒否反応を起こし予定変更。次に見つけたカフェはこぢんまりとした地味な店構えだったのに、ドアを開けたらそこには奥に広がる優しく品の良い空間のカフェ。熟練の風貌を醸し出すマスターが、ネルドリップの珈琲を淹れているという雰囲気の良さに、長谷川社長も上機嫌だった。  しかしこの店に辿り着けたのも、千歳の身体に謎の現象が起きたからだ。それを目の前で見ていた長谷川社長がやっと『荻野は不思議な一族、長子には神がついている』ことを信じるような様子を見せ始めた。  ここは後一押しか? 千歳も弟の義父になるだろう社長さんだから、慎重に様子を窺う。 「まだちょっと腑に落ちないんだけれどさ。朋重君はどこらへんから、千歳ちゃんに神がついているとか、『荻野のしきたり』を信じるようになったわけ」  当事者の千歳からなにを聞いても『神様はほんとうにいる』と盲目的な返答しかないと察知したからなのか、長谷川社長が尋問する矛先は夫の朋重へ。だが彼も落ち着いた笑みをいつどおりにうかべ、社長へとはっきりと答える。 「僕もまさかとか、そんなことあるか、でしたよ。でも小さなことが積み重なって、だんだんと妻と荻野の家が大事にしていることを知って、だからこそ起きたこと、たぐりよせた結果だと思えるようになりました」  まだ長谷川社長は顔をしかめたまま、懐疑的な様子だった。 「いやあ。それじゃあ、朋重君が徐々に荻野に洗脳されたとしかとれないなあ」 「洗脳なんかされていませんよ。んー、そうですね。具体的な出来事ってことですよね」 「最初はなんだったの」  夫に聞くまでもなく、千歳のなかでは『あれかな』とタコが思い浮かぶ。
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