⑬お嬢さんこちら、ご縁の成る方へ

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「千歳を初めて親しい漁師の家族に紹介したあとですね。石狩漁港で蛸が大漁になったこと。漁師宅の息子さんの奥さんが妊娠中だったんですけれど、逆子がなおって帝王切開の手術がなくなったこと。そこの大姑になるおばあちゃんが、常日頃、関節痛で悩んでいたのに改善したこと――ですかね。それが千歳訪問後、いっぺんに起きました」  やっぱり。福神様が招いたタコ大漁! 千歳も懐かしい思いが込みあがり、必死に笑いを堪えた。 「あの時こそ『いやまさか、そんな偶然だ』と思っていたけれど、いま思い返せば、あそこからが始まりかなと思っています」 「ほうほう。いっぺんに、千歳ちゃん訪問しただけで。でも偶然でしょ、やっぱり」  ちょび髭社長、まだまだ眉をひそめて訝っているが、それでもまだ自分の言い分は繰り出さず朋重の言葉を待つ姿勢を保っている。 「それから、漁師宅で大盛りの漁師飯を振る舞ってくれたんですけれど、そこで初めて彼女が『食べる魔女』の姿を発揮してくれて見せてくれて。婚約してから彼女が打ち明けてくれたのですが、『福神様がご馳走を気に入った御礼をすると夢に出てきた』と……。その御礼が大漁と逆子と関節痛が治るということだったらしいんです。そんなふうに、結婚するまでには、彼女と縁を結んだことで様々なことが目の前で起きて、すべて彼女の福神様が呼び込んでいることだと信じられるようになりました」  長谷川社長が黙り込んだ。  妻が言うことをひとまず信じている夫を演じているのか。ただ偶然が重なっただけなのではないのか。ここで否定を繰り出したら、千歳のこれまでの信心をないものとして接することになる。だからなのか、長谷川社長も荻野を無碍にはできない関係になっているので、どう出るか迷っているのが窺える。
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