⑬お嬢さんこちら、ご縁の成る方へ

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 それでも目の前のカウンター客は満足そうに、マスターの一杯を丁寧に味わっている。  老舗のカフェでよくみる、陶芸家の手仕事がわかる陶器のカップが多い。  やがて千歳たちのテーブルにも、その陶芸カップで珈琲が運ばれてきた。 「おまたせいたしました。こちら本日のオススメ珈琲です」  珈琲と一緒にちいさなお菓子がついてきた。  荻野のお菓子だった。個装で売っているバタークッキー。  千歳が驚いてクッキーの袋をつまむと『お菓子付きなの』と女性が驚いていると思われたのか、マスターがにっこりと微笑み教えてくれる。 「祖母の代から、我が家の珈琲には荻野さんのお菓子なんです。とくにこのバタークッキーとの組み合わせがおすすめです。荻野さんからまとめて仕入れさせていただいております。当店の珈琲にはもれなくつけさせていただいております」  千歳が絶句していると、朋重がかわりに返答してくれる。 「そうでしたか。たのしませていただきます。あの、僕たち初めての来店なのですが、いつごろから営業されていらっしゃるのですか」 「この家は私の生家でもありまして、私が脱サラでカフェを始めてから三十年ですね。いまでいうリノベーションをいたしました。二階を住居としておりまして、妻と生活をしております。年齢的なことがあり、いまは週三日~四日の営業にしております。レジに営業予定日のカレンダーカードを置いていますので、よろしければ今後来店のときの参考にしてくだされば有り難いです」 「思い出深いお宅でのカフェ開店だったんですね。なんとなく懐かしくくつろげる空気は、そこからきていらっしゃるのかといま思いました」
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