⑬お嬢さんこちら、ご縁の成る方へ

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 小雪が降り続く庭には、ライトアップをするためのモダンな石造りのオブジェが、ほのかな灯りで降り積もる白い雪を浮かび上がらせている。  言葉を失っている三人のテーブル。一時して長谷川社長が大きなため息を吐きながら、荻野のバタークッキーの袋を開けた。 「あーうん。わかった。朋重君が言いたいことが。こういうことがこれから積み重なっていくってことなんだな」 「そ、そうですね。いえ、僕もいま度肝を抜かれていますよ。でも……、千歳と一緒にいるとこのようなことが多いです」  そんな男二人の視線がまた千歳へと注がれる。  千歳だって驚いているのだ。 「わ、私だってびっくりしてるんだけれどっ」 「あのさ。あの若向けカフェで足が動かなくなった時、声が聞こえたんだろう。あれがなければ、荻野と縁があるこのカフェに出会えなかったわけだけれど……。福神様でなければ、いったい誰からのお告げ?」  朋重に問われたが、千歳もわからないから首を振るだけ。  戸惑う荻野夫妻を目の前に、長谷川社長がクッキーを囓って、陶芸カップを手に取り口元へ、珈琲をひとくち含んだ。そして目を見開く社長の表情。 「うん! うまい! 俺、札幌に出てきたらここにまた来ると思うな。これはいい店と出会えたもんだ!」  天邪鬼なちょび髭社長が絶賛したので、千歳と朋重もおなじように菓子を開け、珈琲をひとくち。おなじく、ちょび髭社長とおなじ顔を夫妻でそろえる。 「おいしい!」 「うん! クッキーの塩気と合ってる。これは自宅でも試したくなるな」  クッキーのバターの香りとコク、塩気、ミルクの甘み。珈琲の薫りと苦みがそれぞれ合わさるカフェマリアージュと言いたい。ひとくちでくつろぎが広がる、楽しい珈琲タイム。
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