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⑭長子の力
荻野のしきたりか家風を信じられないと言っていた長谷川社長だったが、北国古民家カフェでの不思議なお導きに触れてからは、ひとまず荻野と寄り添って付き合っていくと宣言してくれた。
「いやあ、ひさしぶりにいい珈琲を堪能できたよ。千歳ちゃんの摩訶不思議な暮らしぶりもね」
徐々に色濃くなる夜空からは、ふんわりとした綿雪がふわふわと舞い降りてくる。その中、長谷川社長は車道へと手を挙げて、タクシーを捕まえた。車両が路肩に停まろうとしているところで、社長が千歳へと振り返る。
「それでは、また。無事の出産を祈っているよ。生まれたら必ず教えてくれよ。もう親族になるんだから」
「ありがとうございます。必ず、連絡します。弟のこと、よろしくお願いいたします」
「社長、今後も浦和の実家ともども、よろしくお願いいたします」
朋重と共に、夫妻で新しい親族となる長谷川社長へと一礼をする。
社長も照れていたが、嬉しそうな笑みを見せてくれた。
「あはは。まさかの浦和さんと親族になるとはね。お魚屋さんには負けんぞと意気込んでいた自分がいまは恥ずかしいよ。でも、お近づきになれて嬉しいよ。それに……。伊万里君と千歳ちゃんを連れてきてくれたお兄さん、秀重さんに御礼を言いたいくらいだ。今後も親戚としてよろしくな」
「兄に伝えておきます。父も、長谷川さんにお目にかかりたいと言っていたので、機会をつくりたいと思っています」
「うん。楽しみに待っているよ。なんだったら、食べる魔女さん姉弟のために、肉と海鮮で食べ尽くし会をやろうじゃないか」
肉と海鮮で食べつくし会!?
千歳の表情がぱっと変化したせいか、長谷川社長と朋重がくいつきよい千歳を知って笑い出した。
「たくさん食べたいだろうから、出産が終わったらな。その時に3ポンドフィレステーキを焼いてやるよ」
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