⑭長子の力

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 千歳がさらに『ほんとうですか!?』と喜び飛び上がると、長谷川社長も嬉しそうに微笑んで、路肩に駐車したタクシーへと乗り込んだ。  後部座席から『じゃあな』と渋いお髭の顔で手を振ってくれる。綿雪の中、千歳と朋重は歩道にて揃ってお辞儀をして見送った。 「冷えたらいけない。俺たちも車で帰ろう」  朋重は黒髪が濡れないようにと、千歳が着ているダウンコートのフードを被せてくれる。彼も自分のコートのフードを被ると、千歳に腕を差し出してくれる。いつものように頼もしいお婿さんの腕に掴まって、千歳も歩き出す。 「また不思議なご縁に出会えたな。あのカフェなら、兄とか桜子義姉さんとか、両親にも教えちゃうな。それに……。凄いな。あのカフェに入っただけで、長谷川社長を一発で説得できちゃったんだからな」  車をとめているコインパーキングまで歩く道すがら、綿雪が降りてくる空を見上げながら彼が呟いた。 「あれ、足が動かなくなったのは。福神様の声でなければ、なんだったんだろう」  夫と同じ空と雪を見上げる。白い花が舞うような綿雪が千歳と朋重を包んでいく。  夫ならば――と、迷わずに千歳は告げることにした。 「あのね。お母さんから聞いたんだけれど、私がおなかにいる時に『ママって呼んだらいいの?』と話しかけたらしいの……」  雪の中、一緒に歩いていた朋重が立ち止まる。  おなかの中から話しかけた。それがどういう意味かわかって、またもや摩訶不思議な妻の体験談に呆気にとられている。 「お義母さんが不思議なのか、千歳が不思議なのか……?」  夫もおなじことを感じて言葉にしたので、千歳は思わず笑む。  自分とおなじことに気がついてくれたからだ。 「それってつまり、おなかの中にいた千歳が話しかけたってことだろう。あ! ってことは!!」
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