⑭長子の力

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「うん。そう。もしかすると……。私たちの子が、話しかけてきたのかも」 「うわ! 嘘だろ。えー!? 俺も聞きたい!」  街中なのに、朋重がいまにも地面に跪いてお腹を目の前に顔を近づけたい姿勢になりそうだったが、雪で濡れていたので諦めて、お腹を抱きしめるかわりに千歳を抱きしめてくれる。  綿雪の中、朋重の胸の中は温かくて千歳も人目も構わず彼にもたれる。 「いちおう、女の子だってわかっているけれど。やっぱり長子で女児で……。不思議な子なのかしら」 「うん。生まれてくるまで性別は確実ではないけれど、女の子でも男の子でも、きっと荻野の長子の力を備えて生まれてくるよ。俺たちで導いて、その子らしく育てたい。千歳のご両親のようにね……。そうか。力もっているんだ、もう……」  抱きしめてくれている彼を見上げると、赤ちゃんが不思議な子として生まれてくることが嬉しそうに見えた。  ほんとうに。この男性と出会えて結婚できて、夫妻になれて良かったと思える綿雪の夜――。 「でも。ちぃちーちゃん、『このお店はダメダメ』って、どういう意味で伝えてくれたんだろうな。流行のカフェよりも、あちらの古民家カフェのほうがご縁があるよと教えてくれたのかな」 「うん、そんな気もするわね。長谷川社長がひとまず納得してくれたのも、あの声が引き留めてくれてお店を変更することになったおかげだものね」 「そうかあ、どんな神様が付いてくれるんだろうな。それも楽しみだなあ」  気温がどんどん下がって、大きな綿雪が夜空を白色に染めるように降りしきる中、夫が子供を待ち望む笑顔には温もりしかかんじない。  でも。千歳はまだ不安に思っている。  どんな神様が付いて、自分は神様付の先輩としても母としても、どうこの子と接していけばいいのだろうかと――。 ❄・❄・❄
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