⑭長子の力

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⛄❄⛄❄⛄  この子はどんな力を持って生まれるのか。  きっと付いた神様と繋がる力だろうから、付く神様の性質によるのだろう。  お腹も大きくなって重くなり、千歳はついに産休に入った。雪深い季節に突入し、さっぽろ雪まつりで賑わっている時節だった。  企画室は、細野係長と主任の伊万里と、同期生の小柳主任に任せているので安心はしている。それでも、二日に一度はリモートで会議に参加したりしている。試食のサンプルは伊万里が自宅へ持ってきてくれ、そこで二人で打ち合わせもするので、仕事に支障はない。  植物園も白く染まり、窓辺は雪景色の日々。  朋重も仕事に出掛けているので、日中はひとりでいる千歳はランチをしようとキッチンに立っていた。  手軽に済ませようと、混ぜて炒めるだけという商品を手にして、刻んだ野菜と合わせる準備をしていた。  箱から出して、レトルトパウチの袋の口を切って開けようとキッチンバサミをあてがった時だった。がっちりと誰かに手を握られたように、そこで動きを止められた。 『ダメダメ!!』 「え!?」  また声が聞こえてきて、千歳はあたりを見回した。  福神様ではないかわいい声。二ヶ月ほど前に聞こえてきた声!  千歳は思わず、大きく膨らんで前に突き出してきたお腹へと視線を下ろす。  そしてレトルトパウチを見つめ……。もう一度、ハサミを手に袋の切り口部分に当てて開けようとする。 『ママ、ダメ。ダメ、ダメダメ!』  ママって言った!?  今度こそ千歳は仰天して、跳び上がりそうになった。  この驚きを伝えたい夫もいまはそばにいないから、ひとりで『うそ、うそうそ!』とわたわたと大騒ぎ、うろうろしてしまったほどだった。  もう一度落ち着いて。キッチンでコンロの前へと立った。
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