⑭長子の力

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 レトルトパウチを手に持って、もう一度ハサミを……。あてがったそこでチャイムが鳴る。  もしやなにかを察した朋重が帰宅してくれたのか、だとしたらこの摩訶不思議な体験まっただ中で戸惑いいっぱいの千歳の気持ちを受け止めてくれると、喜び勇んでインターホンに出てみたのだが。 『姉ちゃん、俺~。一緒にランチしよー。野菜サンドとかいろいろいっぱい買ってきた!』 『こんにちは。とつぜん申し訳ありません。札幌に出ていたものですから、お姉さんに会いたくて』  伊万里と木乃美だった。  あれから正式に婚約をして、春になったら結納をする予定のふたり。  最近は、長谷川牧場がある日高地方から木乃美だけが札幌に出てきて、伊万里の自宅で過ごしたりデートしたり、結婚準備の打ち合わせもしていると聞いていた。  出てきた時も時間があれば千歳のマンションにも、お土産付きで会いに来てくれる。  今日もひとりで過ごしているところにちょうど来てくれて、夫ではなかったが千歳もほっと気持ちが落ち着いてきた。  ふたりを自宅内に招き入れ、リビングでランチの準備をする。  千歳がコーヒーやら紅茶やら準備をすると言い出すと、気立ての良い木乃美が『手伝う』とキッチンに一緒に入ってくれた。 「あら。千歳さん、ひとりでお昼ご飯の支度されていたところだったんですか」 「うん、そうなの。手間かけるのがちょっとしんどくて、簡単にこれをつかって野菜炒めをしようとしていたんだけれどね。そこでちょうど、ふたりが来てくれたから、これは中止。明日に回すね。炒める前でよかった」 「ご連絡入れてからにすれば良かったですね。私が急に、千歳さんと一緒にランチできるかもなんて言いだしたから」
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