⑯いつもそばに

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「そんなことないわよ。朋重さんがそうして明るく広い懐に受け止めてくれて、奇妙な私の体質だって、荻野の家だけが体験してきたことだって、お婿さんとして信じてくれて、妻の私同様に受け止めてくれたじゃない」 「いや……。俺もいま初めて。プレッシャーを感じたんだ。きっと千歳と同様、外から見ればけっして信じてもらえない『奇妙な力』を持って生まれるのだろう。守ってやらなくちゃいけない。どんなことも父親として信じて、外から見られる視線からも守ってやらなくちゃいけない」  彼のさらなる父親しての自覚と覚悟だった。  不思議な一族と言われても、その実体は『頭がおかしい一族』とも言われかねないものでもある。  実際に長谷川社長は千歳のことを『家内でいちばん権威があるお祖母様に洗脳させてる』とまで口にしたほどだ。  娘の嫁ぎ先がおかしな精神を隠し持っていないか。あれは最終確認でもあったのだろう。でも、伊万里の人柄もあってか、または千歳を見て信じてくれたのか、ひとまずは信じてみると言ってくれたので安堵することができた。  朋重は神妙な面持ちのまま、重いため息をまたついた。 「ほんとうに暢気だったと思うんだけれど……。千歳はどうやって福神様のことを隠して育ってきたんだ? つまりはこれから、娘は千歳とおなじように他人様から奇妙な視線を集めないように言い聞かせて育てていく、親が注意をして見守っていくということだよな」  ネクタイを解いて、シャツのボタンを少し開けた状態で着替えを止め、うつむいて考え込む夫へと千歳は歩み寄る。 「娘のこれからを既に思ってくれるパパで、私、嬉しいし安心しています」  そんな夫の背中へ、千歳はそっと手を置いた。
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