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「当然だろ。俺はもう荻野の人間だ。なによりも……。荻野の人たちが密かに様々なことに貢献しようと心に秘めている、そんな気質が好きだよ」
そういって千歳をまた抱きしめてくれる。
お腹のふくらみがあるから、いままでのようにぴったりは夫の胸の中には収まらない。でもその間にはもう小さな子が一緒に抱きしめられている。
彼も気もちが落ち着いたのか、やっといつもの朗らかな表情に崩れて、フローリングの上に跪いた。
そのまま目の前にある千歳のお腹に耳を当てて、そして囁く。
「ちぃちーちゃん。ママを守ってくれたんだな。偉いぞ。パパも守ってやるから、安心して生まれてこいよ」
パパの声がきこえたのかな? 千歳のお腹の中で、ちぃちーちゃんがぐるっと動いたのがわかった。
「千歳が福神様と子供時代をどう過ごしてきたか。もっと聞きたいな。参考にしたいよ」
夫の言葉に。一緒にいることがすっかりあたりまえになってしまった福神様との子供時代を千歳は久しぶりに思い出す。
いつからか、脳裏にぽんっと映像が浮かぶようになった。
どんなときもいきなり現れて、最初の頃は戸惑いがあったのも確かだった。
どうして、私のそばにきたの?
『そりゃ、あなたのとこの菓子を守り通すためよ! 菓子は万民のしあわせのひとつですぞ! 守り通す気概があるあなたの一族につくと決めたのよ』
その菓子を守る長子として育てますぞ!
しょんぼりしている時は、ころころしたぬいぐるみみたいなお姿で、千歳の頭の中で転がっておどけてみせたり。
ここぞというときには凜々しく気品ある大人の佇まいになって、厳しいお顔で千歳を諭し背中を押す。
『私がついておりますぞ。おもいきっていきなされ』
心細い時も、福神様はそばにいてくれた。
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