⑰桃のお出迎え

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 徐々に正気にもどってきた千歳がうっすらと目を開けると、そこには心配そうに覗き込んでいる栗毛の夫がいた。 「朋重さん……、産まれたね……産まれた……」 「ああ、産まれた!」  もう彼は涙ぐんで目元を拭っていた。 「女の子、よね?」  福神様の姿を追っていたため、産まれた瞬間の外の声がはっきりと聞き分けられなかった。  妊娠中の外からの判断だけでは、女児か男児かは確定はされていない。産まれたら男児だったという可能性もあるから、女の子だろう――というおおよそのことしか判断されていない。  福神様が抱いた時には、おくるみに包まれていたから性別はわからないまま。  目の前の麗しい夫が、このうえなく嬉しそうに微笑んだ。 「女の子だったよ」  いま助産師が身体を洗って体重を量って、連れてきてくれるという。  やっと外の景色がはっきりと認識できるようになった千歳は、もう待ち遠しくてそわそわ。短い時間でも長く感じた。  やがて『はーい、綺麗なりましたよ』と白いタオルにつつまれた赤ちゃんを、助産師が連れてきてくれた。  母親だからと、いちばん最初に千歳から抱かせてもらう。小さくて、思ったよりずっしりしていて、でもふにゃっとしていて軽くも感じて怖々と千歳は包み込む。  一足先に福神様と一緒に会いましたね。  千歳はそっと微笑みかける。福神様が抱いていた赤ちゃんと同じ顔だとすぐにわかった。 「うわ、小さいな~。やっぱりまだ、ちぃちーちゃんってかんじだな~」  夫の琥珀色の瞳がきらきら輝いている。この娘にもそのうちに、パパの瞳がどれだけ素敵で綺麗なものか、知ってくれる日もくることだろう。  千歳はそっと、朋重にも小さな彼女を差し出した。 「はい、パパもだっこね」 「ちぃちーちゃん、おいで」  戸惑いも躊躇いも見せず、朋重はもうすぐに抱きたかったとばかりに、千歳の腕から早々に譲り受け、娘をその腕に抱く。
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