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「やっときてくれたな。パパのところに……。がんばったね、ちぃちーちゃん」
夫の眼差しがさらに優しくなった。ああ、そこまで崩れる目元は、きっと娘のためだけね――と千歳でも思うほどのものだった。
「そうだ。もう、ちぃちーちゃんじゃないな」
朋重が千歳を見つめる。彼の琥珀の目と合った千歳も頷く。
朋重と一緒に、パパの腕の中にいる娘を覗き込んで、ふたり一緒に囁いた。
「千咲、ママの千歳ですよ」
「千咲、パパの朋重だよ」
女児とわかったらと決めていた名前で呼んであげる。
荻野千咲。まだ雪が残る北国だけれども、もうすぐ桃の季節に誕生です。
神様がついているだろう貴女もきっと、荻野の長子長女として跡取り娘になりそうね――。
---😇🌸👶
初めての授乳のやり方を教えてもらったり、はじめておむつをあてたり、体重の量り方を教えてもらったりして、あっという間に一日が過ぎる。
朋重は、父の遥万と伊万里と一緒に『一休み』で自宅に戻った。男同士で一日を過ごして、また千歳の手伝いにきてくれるとのこと。
千歳も一休みでうとうとしていたのだが、いつのまにか夕方になっていた。疲れでぼんやりとした目覚めだったが、雪が残る景色ながら、空がほんのりと茜に染まる三月の夕空には春らしさをかんじて、ほんわりと幸せな気持ちになる。ベビーコットにすやすやと眠っている娘にも、しあわせの茜がふりそそいでいて、愛らしい気もちが溢れてくる――。
やさしく穏やかな時間を堪能していると、この個室に母が訪ねてきた。
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