⑰桃のお出迎え

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「千歳、大丈夫かしら」 「お母さん。来てくれたの。お母さんも休んだ?」 「ええ。あなたのマンションで、少し仮眠をさせてもらったわよ。しばらくは私もお手伝いで泊まらせてもらうか、通いますからね」 「心強いです。ありがとう、お母さん」  産気づいてすぐに駆けつけてきてくれた母。そして父。弟の伊万里まで――。ちいさな赤ちゃんを一目見て、両親と弟で目をキラキラさせて喜び合っていたと朋重が教えてくれた。 「お祖母ちゃまも、もうすぐ来るはずよ」 「ほんとに? お祖母ちゃま、今日ははずせない会合があったのよね……。相変わらず忙しいのね」 「気丈に見えても、もうお歳もありますからね。夜は無茶しないようにお願いしていたのよ。すぐに駆けつけられなくて、残念がっていたわよ」 「お祖母ちゃまにお話したいこと、いっぱいあるの……」  福神様のこと。祖母には伝えておきたいと思った。  母は『あら、どんなことなの』と尋ねてくるかと思ったが、ただ聞き流したように微笑んでいるだけだった。  その顔が千歳には達観しているかのように見える。なにもかも知っているような顔をする時がある。母はそうして、不思議な雰囲気をよく醸し出す人だった。 「お母さん。私を産む瞬間、なにか夢のようなものを見たことある?」 「産む瞬間? お腹から出てくる時ってこと?」 「そう。たとえば……、お母さんにそっくりな聖女さんが頭の中に浮かんだりした?」  自分が胎児の時も聖女様がそばにいて、福神様に引き継がれた場面があったのかもしれない。  母も出産時にそんな風景を見ていないか千歳は尋ねていた。 ※明日も朝の五時に更新予定です!
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