⑱ようこそ荻野家へ

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 そろそろ窓辺から、やさしい茜が消えそうなころ。  この病室にまたひとりの訪問者が現れる。  着物姿の祖母だった。 「お祖母ちゃま……!」  千歳もつい、子供のように嬉しさいっぱいの笑顔を見せてしまった。  しかも、なんでか……。父や母がそばにいる時以上に涙が滲んできた。 「遅くなりましたよ。ごめんね、千歳ちゃん」  孫に見せる時の柔らかな表情の『お祖母ちゃま』の様子で千歳のそばに来てくれる。  すぐにベッドサイドに寄り添っているベビーコットへと祖母の目線が定まる。 「まあ、かわいらしい」  そして祖母はすぐに千歳にも視線を向けてくれる。 「頑張ったね、千歳ちゃん。これであなたも立派なお母さんだね。頑張って育てなさい。この子が荻野の長子だからと頑張りすぎても駄目だよ。この子がこの子らしくあるように、それが第一だよ」 「お祖母ちゃま……」  祖母のことだから『荻野の長子として立派に育てるべし』と活を入れられると思っていたので、そうではない、長老ではなく本当に千歳の祖母としての言葉に、また千歳は涙をこぼしてしまった。  そんな孫娘を知って、祖母の千草は『あらあら』と大らかに笑いながら、ベッドで起き上がっている千歳の背を撫でてくれた。  お祖母ちゃまの優しい手、孫だからと甘やかしてくれる時のお顔。温かさにまた千歳は涙をこぼしていた。  ああ、私、どうしちゃったのかな。こんな、子供の時みたいに泣いちゃうだなんて。やっぱりホルモンバランス崩れているからなのかな。そう思うほどに、いつになく泣けていた。 「お祖母ちゃまもだっこしていいかしら」 「うん、だっこして。お祖母ちゃま」 「伊万里以来で、ちょっと怖くなっちゃうわね。こんな小さかったんだね。千歳も伊万里も……」
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