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そろそろ窓辺から、やさしい茜が消えそうなころ。
この病室にまたひとりの訪問者が現れる。
着物姿の祖母だった。
「お祖母ちゃま……!」
千歳もつい、子供のように嬉しさいっぱいの笑顔を見せてしまった。
しかも、なんでか……。父や母がそばにいる時以上に涙が滲んできた。
「遅くなりましたよ。ごめんね、千歳ちゃん」
孫に見せる時の柔らかな表情の『お祖母ちゃま』の様子で千歳のそばに来てくれる。
すぐにベッドサイドに寄り添っているベビーコットへと祖母の目線が定まる。
「まあ、かわいらしい」
そして祖母はすぐに千歳にも視線を向けてくれる。
「頑張ったね、千歳ちゃん。これであなたも立派なお母さんだね。頑張って育てなさい。この子が荻野の長子だからと頑張りすぎても駄目だよ。この子がこの子らしくあるように、それが第一だよ」
「お祖母ちゃま……」
祖母のことだから『荻野の長子として立派に育てるべし』と活を入れられると思っていたので、そうではない、長老ではなく本当に千歳の祖母としての言葉に、また千歳は涙をこぼしてしまった。
そんな孫娘を知って、祖母の千草は『あらあら』と大らかに笑いながら、ベッドで起き上がっている千歳の背を撫でてくれた。
お祖母ちゃまの優しい手、孫だからと甘やかしてくれる時のお顔。温かさにまた千歳は涙をこぼしていた。
ああ、私、どうしちゃったのかな。こんな、子供の時みたいに泣いちゃうだなんて。やっぱりホルモンバランス崩れているからなのかな。そう思うほどに、いつになく泣けていた。
「お祖母ちゃまもだっこしていいかしら」
「うん、だっこして。お祖母ちゃま」
「伊万里以来で、ちょっと怖くなっちゃうわね。こんな小さかったんだね。千歳も伊万里も……」
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