⑱ようこそ荻野家へ

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 いつも威風堂々の祖母があたふたしていたので、今度は母と一緒に千歳も笑い声をこぼしていた。  母がそっとベビーコットから抱き上げ、着物姿の祖母の胸元へと持っていく。祖母も慎重に静かに……、初めての曾孫をその腕に包み込んだ。 「まあ、軽いこと。でも重いこと……」  千歳が初めてだっこしたときと同じ感想を祖母が呟いた。  その時だった。祖母に抱かれた途端、腕の中の娘がぱっちりと小さな目を開けたのだ。 「あら、お目覚めですか」  少し表情をくしゅっと崩したので、泣き出すかなと千歳は構えたのだが――。娘の千咲はまだ目が見えないはずなのに、祖母をじっと見つめている。静かに泣かずにただただじっと……。 「不思議だね。まだ目が見えないはずなのに……。まるで、私が見えているみたいな顔をしているよ……」  あの祖母が戸惑っている。誰よりも不思議な体験を重ねてきただろう祖母でも、どっきりとする現象が起きているようだった。  千歳もだった。祖母がいうとおりに、娘は祖母を一直線に見つめているようにしかみえない。  母の凛香はにっこりと微笑むだけの落ち着きで、でも不思議なことを言いだした。 「お義母さん、縁神様が見えているのではないですか」 「え、そうなのかね! まさか、そんな、」  だがそこで祖母もじっと目を瞑って黙り込んでしまった。  しばらくして、祖母が目を開ける。腕の中に包んでいる千咲を見下ろし顔を綻ばせる。 「そんなに見つめられると照れると、仰っているわね」  縁神様がそんなことを言っていると知って、千歳は飛び上がる。  え、え、うちの子、ほんとうに見えているの?? 「縁神様もお喜びだよ。いらっしゃい、千咲――と祝福しています」
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