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⑲ちぃとりぃ
ハマナスが咲く砂浜から丘へと、潮風が駆けていく。
青い夏空に、今日も真っ白な風車が回る海岸線――。
石狩の海が見渡せる高台、漁村神社のそばにある一軒家に今日はいる。
「できないんだもん、できないの、できないの!」
甲高く響く子供の声、そのあとにうわんうわんと泣く声がリビングに響いた。
泣いているの次女の千里。
千歳は二児、姉妹の母親となっていた。妹の千里は三歳、なんでもやりたがりのお年頃。自分でくつしたを履くと見守っていたら、できないと大泣きを始めたところ。
そんな娘のそばに歩み寄ってひざまずいたのは夫だった。
「どれどれ、パパが手伝ってあげるよ」
「くつした、はけないの……。パーティーまにあわなくなっちゃう」
「大丈夫だよ。まだみんな車に乗っている時間で、パーティーをするお庭にはまだ誰もいないよ」
くすんくすんと泣いていた娘が、小さな頭をパパに撫でてもらって泣きやんでいく。そうして、小さなリボンがついている靴下をパパと一緒に履き始めた。
いつもにっこりと優しい笑みを絶やさないパパの朋重は、妻の千歳を労ってくれたように、娘のお世話もなんなくこなしてくれている。
「おねえちゃんといっしょのくつした、はきたかったの」
「かわいい靴下だもんな。ママとお姉ちゃんと一緒に選んだんだもんな」
「リンばあちゃまと、ナナばあちゃまもいっしょだったの。みんなとえらんだの」
「女子会の日だよな。今日のバーベキュー大会のためにおそろいにしたんだよな」
「このみちゃんもいっしょだったらよかったのに……」
「木乃美ちゃんは、牧場のお仕事もしていて忙しかったんだよ。でも今日、会えるだろ」
「ジョーじいちゃんも来る?」
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