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ゲストルームもあるので、伊万里と木乃美の弟家族も宿泊して姉弟家族で過ごすこともあれば、祖母の千草や、千歳の両親が遊びに泊まりに来ることもある。
荻野家の『石狩の家』として休日を象徴する別荘へとなりつつある。
二階建て、上は子供部屋と夫妻の寝室、一階はリビングとキッチン。
そのリビングで、やっと機嫌を直した次女の千里とやさしいパパの朋重が身支度を進めている。
千歳はダイニングテーブルでパソコンを開いて、出掛ける前に本社の業務に滞りがないかチェックしている。
「お母さん」
そこに長女の千咲がやってきた。
五歳になった娘だったが、どこか大人びていて表情がいつも落ち着いている。次女の千里のように感情赴くままに騒いだりとか、なだめるのに手がかかるなど、そんなことがあまりない。
この子、感情に起伏があるのかなと案じたことがあった。が、母と父が言うには『千咲と千里を見ていると、もの静かな千歳と感情に素直で騒がしかった伊万里――という、異なる性格を持った我が子たちのことを思い出す』と微笑ましく眺めていたので、そんなものかと千歳もひとまず安堵はしている。
千咲は五歳なのに、黙々と大人しく着替えを終えて、それを母である千歳に報告しにきたようだった。
「うん、かわいい。その靴下、千咲が最初にみつけたんだものね。すっごく、かわいい」
彼女の艶やかな髪を撫でると、やっと娘が子供らしい笑みを浮かべて、千歳をまっすぐに見つめてくる。
混血である夫の血が混じったからなのか、娘の髪は真っ黒ではないし、目の色も千歳や伊万里よりも明るい褐色だった。その奥に静かなものを湛えている千咲の瞳は吸い込まれそうなほどに透き通ってる。
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