⑳末広がりBBQ

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「ジョーさん。ありがとうございます。もうわくわくが昨夜から止まらなくて。長谷川の金賞和牛をそんな惜しげもなく戴いちゃっていいのかなって毎回思っているんですけれど、欲望には勝てなくて……」 「なに言ってるんだ。うちの大事な婿殿伊万里君と、福を呼ぶ食べる魔女である姉君のためならいくらだって。それに『福神様』もそわそわしているんだろう?」  大当たりなので千歳は『そうなんです。ずーーっと騒いでいます』と素直に返答した。それにも長谷川社長は『俺の肉、神様のお気に入り』と高笑いをして、底抜けに明るく陽気に出迎えてくれた。  そんなちょび髭ジョーさんのそばには、せっせと食材を並べて手伝いをしているエプロン姿の伊万里もいた。その伊万里がまた、姉の目の前足下にビールをワンケース、どんと置いた。 「そんな福神様にはこれも必要だろ。福神様のラベルが目印、黒ビール! これを納めるのもいまや俺の役目。そしてこのビールを奉納してから、俺にしあわせご縁を持ってきてくれたんだもんな」  伊万里がかわらずに持ち込んで来てくれた黒ビールのケース。福神様がビールの中でも特に黒ビールを好んでいることで、いまは伊万里が必ず準備してくれるようになっていた。 「うちの金賞和牛ステーキと、黒ビール。長谷川家と荻野家長男一家からはこれを奉納ってことだな。今日も荻野の神様に喜んでもらうぞ~!」  ちょび髭社長の張り切る声が庭に響く。そんな父を見て、千歳のとなりに控えていた木乃美も笑っている。 「もう、お父さんったら。すっかり荻野の神様を当てにして……。最初はあんなに疑り深かったのにね」  確かに。懐かしいなと千歳は朋重と微笑む。
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