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初めて出会った品評会会場では『偏屈おじさん』と言いたくなるほどのお方だった。そんな長谷川社長を思い出しては、千歳は笑いたくなる。そして、いまはあの強靱なスピリットで突き進む信念は頼りがいもあるし、強い後ろ盾にもなっている。
長谷川社長も木乃美と伊万里が結婚して、とくに千咲が産まれてからは、不思議な体験を何度も重ねたようで、いまはもう『荻野の神は長谷川の神』とまで言ってくれるようになった。
千咲が産まれてから不思議――というか、『ちぃちーちゃんは、千歳ママのお腹にいるときから不思議だったんだよ。ジョーじいちゃんが見つけていたカフェがな……、その後に見つけた古民家カフェがな……』と、あの時の話が親族で集まると鉄板の話題になってきている。
さらに長女には不思議な目利きが備わっていることを顕著に感じるように……。
そんな千咲を見て、長谷川じいちゃんがにんまりと意味深な雰囲気を醸し出す。
「千咲ちゃーん。今日もジョーじいちゃんの新しいお肉を食べてくれるかなあ」
千咲の瞳がちょび髭じいちゃんへと向かう。
「いっぱいは食べられないけど、ジョーおじいちゃんのお肉はおいしいからいいよ」
「よっしゃ。自信あるぞ。千咲ちゃんが食べて『おいしい』とお墨付きになったことで、金賞を獲得したといっても過言ではない! 荻野のご加護様、お願いします」
千咲を拝みはじめたから、また集まっているそこが笑い声で賑わった。
「いらっしゃい、千歳ちゃん。もうすぐタコ天も揚がるよ。キッチンに来てくれたら揚げたてあるし、ビールも冷やしてあるよ~」
開け放してあるリビングから、富子おばあちゃんが千歳を呼んでくれる。『タコ天揚げたて』のワードに、千歳はすぐに反応。
「タコ天! 行きます、いますぐ行きます!!」
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