⑳末広がりBBQ

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『さらにお喜びです』と呟きながら千歳がふたくちめを頬張ると、お嫁さんたちがほっと安堵した笑みをそろえていた。今日も福神様が喜んでくれたと感じられたからなのだろう。  いまでは荻野家の『不思議』は、川端家も受け入れ信じてくれている。  何故なら、この漁村はいつも好漁。タコがいちばん安定していて、鮭が不漁と言われていても、なぜかここの漁協だけは水揚げ量は例年通り。漁師たちも無事故で過ごしている。  富子おばあちゃんはあれから元気いっぱいで足の痛みもなくなり、ミチルも安産で健康奥様、姑の亜希子お母さんも無病息災。お嫁さん三世代仲睦まじく過ごしている。それもこれも『朋君が千歳ちゃんを連れてきてから』とのことらしい。  しかも『和牛を持ってくる知り合いとご縁があった!』と、魚介専門の一家だから、それがまた嬉しかったらしい。  たまにお庭を開放して親族を集めると、とんでもないご馳走パーティーが開催されるので、それも楽しいとのことだった。  いまはこうして、千歳と福神様のために、揚げたてのタコ天を作って待っていてくれる。  でも。千歳はタコ天を食べるたびに思い出すのだ。  朋重と初めてのデートがこの漁村で、彼にうっかり『食べる魔女』の姿を披露してしまったことを……。そのままの自分を彼がうけれいてくれたことを。  そして千歳はこの家に訪ねてきたら、必ずしていることがある。  タコ天をいただいて、出来上がったご馳走をキッチンから庭に運んで配膳を手伝う。父と母と祖母たちが、長谷川家と川端家と挨拶をそれぞれ交わしていることを傍目に、千歳は再度、川端家の自宅内におじゃまする。 「富子おばあちゃん。大広間の神棚までおじゃましますね」 「ああ。いいよ。いつもありがとね。うちの神棚にも気遣ってくれて」  キッチンにいるおばあちゃんにひと声かけてから、千歳は向かう。
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