㉑神様のお花見

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「ううん。束冴君が大事にとっておいて。だってこのお家の中で見つけた落とし物でしょう。それはこのおうちの男として生きていく束冴君への神様からの『お知らせ』だと思うの」 「千歳おばちゃんは、神様が見えるの? 俺、そう感じている」  本当なら隠すんだけれど――。  千歳はそう思っても、気もちはもうこの子を信じている。  それに。福神様もなにも言わずに出てこない。止めに出てこないということは、そういうことなのだろう。 「あのね。神様は見えるものじゃなくて、感じるものなの。おそばにいると思っていたら、ちゃんとそばにいるの。良いことばかりじゃなくて、怒られることもある。どう生きていくべきか、合わせ鏡のようにして見せてくれるの。その『感じる力』が、おばちゃんにはちょっと強くあるだけ」  小学二年生にこんなこと言っても……。千歳も戸惑いつつ伝えてみたが、束冴の黒い瞳はまっすぐ真剣で、ほんとうに大人のよう。きちんと理解して聞いてくれていると千歳も確信している。 「そうなんだ。祖父ちゃんも言うんだ。昔から守ってきたものを漁師の家は忘れちゃいけないって。うちの神棚は大事に守ってくれよって。父ちゃんの次は束冴の仕事だって言われているんだ」 「そうだね。この川端のおうちは、神様も居心地がいいおうちなんだと思うよ。ここにいますからね、時々来ていますからね、というお知らせをしてくれているのかもね」 「そっか。来てくれている『お知らせ』なんだ」 「でも、こっそり来ているから、おうちの人以外に教えちゃだめだよ」 「わかった!」  やっと子供らしい純真な輝く瞳と笑顔を見せてくれたので、千歳も彼の頭を撫でた。
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