㉑神様のお花見

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 あとで箱に入れてとっておいてある『神様の落とし物』を見せてくれると、束冴は張り切って大広間を出て行った。 「いまハマナス咲いていますもんね。お花見でもされてから来たのかな」  束冴が分けてくれた紅の花びらを抓んで、千歳は神棚を見上げる。  最近、千歳は保食神様を見なくなった。いつからだろうか。子育ての忙しさに流されて、気がつけばいつからだったか思い出せない。  たまに福神様経由で『保食神さんが荻野のお菓子を食べたいって~』と教えてくれるくらいだ。そんなお告げをもらったら、川端家を訪ね漁村の神社にもお参りに行っている。  通ううちにこの漁村の空気が夫妻そろってくつろげることに気がついて、別荘を持つことになった。  そのおかげか。お姿は見えなくても身近に感じる歳月を送ってきたから、見えなくてもそばにいるように感じてしまっていた。  見えないけど、福神様の次にとても身近に感じる神様。夫の実家、浦和家が祀ってきた神だからなのだろう。 「でも。両家に寄り添ってくださっていること、感じています」  紅の花びらの薫りを吸い込んで、千歳は微笑む。  庭に出ると、もう賑やかに四家が出そろって網焼き鉄板焼きで盛り上がっている。 「おー、きたきた。千歳ちゃん、タコ天、冷めてしまうぞ」  川端の洋太おっちゃんが、大きな盛り皿をそばに手招きしている。 「千歳さんの好物、浦和水産レストランの鮭親子丼も作っておいたよ」  秀重義兄と桜子義姉が、サーモンの刺身とイクラをたくさんのっけた丼を掲げて声をかけてくれる。 「三ポンドステーキも焼き上がるぞ~。伊万里君、黒ビールもセットできたら、お姉さんと一緒に食べたまえ」 「ありがとうっす、ジョー義父さん!」
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