㉒純白のおしるし

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「昔の人みたいな白い服を着ていて、髪が長い女の人。優しそうで綺麗な人。あ、あのね。『あなたのおうちの、いちごチョコサンドのサクサクパイと、ナッツごろごろフィナンシェが大好き』って言っていた! 私も好きって言おうとしたけど言えなくて……。でね、優しく撫でてくれたの。その手が冷たくて。それで、『これからも仲良くしましょうね』って……これを手にぎゅってしてくれた」  千歳は目を覆って泣きそうになった。  いつから? いつから、娘のおそばにと決意をしてくれていたのか。  福神様が『この漁師一家とも末永く続きたい』と仰せだったのも、保食神様が結婚前の千歳に真珠を握らせてくれたのも、ここまで決まっていたから?  出産の時、福神様が最後におくるみの娘を手渡していたのは、保食神様? あの時に見えた綺麗なお手は、あの美しい女神様の手だった?  千歳のそばでは事情を理解してくれているミチルも驚きでおののき、茫然としていた。 「千歳ちゃん、まさか……。これって」 「うん、きっとそう。来てくれた、長子のところに。ううん、きっとずっと千咲のそばにいてくれたのよ。このお家とご縁があった時からきっと……」 「うそ! 私ったら、すごい瞬間に立ち合っちゃってる!?」  千歳は千咲を抱きしめる。  母として、跡取り長子として、娘に無事に神様が付いたことに安堵している。でもそれは『娘が大きな責務を背負った瞬間』でもあって、その重みに耐えられるよう、千歳が守って導いていかねばらないという改めての決意を胸に刻まねばならぬ瞬間でもあった。  でも、きっと。福神様のように、保食神様が娘を守ってくれる。そう信じられる。 「お母さん? 泣いているの?」 「え、うん。お母さん、その女の人をよく知ってるの。神様なのよ。千咲の神様」
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