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「この綺麗な石、どうしたらいいの。これ、お母さんが大事にしているネックレスの石に似てる。お母さん落としたの?」
「これはね、石じゃなくて『真珠』という海の宝石なの。千咲のものよ。宝物にしようね」
「いいの? わたしの宝石にしていいの」
『いいのよ』――と、娘のやわらかい頬を包み込むと、やっと千咲が子供らしい嬉しそうな笑みを広げた。
「お母さんももらったことあるの。お揃いね。大人になるまで、お母さんが大事にしまっておくね。これ、お母さんが預かっていい? お父さんにも見せていい?」
千咲が素直にこっくりと頷いてくれる。
千歳は震える指先で、娘の小さな手にぽつんと輝いている純白の粒をつまんだ。
それを大事に握ってリビングへと急いだ。
家族が集って酒盛りをしている席へと千歳は出向き、夫の朋重をまず探す。千歳がそこに現れると、すぐに朋重が気がついてくれた。
「千歳……?」
「朋重さん、ちょっと」
いつもと様子が違う千歳に気がついたのは朋重だけではなく、父に母に、千草祖母も。義母の菜々子も敏感な質なので、なにごとかと不安そうな表情を見せはじめた。
朋重だけが席を立ち、廊下まで出てきてくれる。
「どうかしたのか」
「これを見て。昼寝をしていた千咲が目覚めたら手に握っていたらしいの」
大広間で。目覚めたら手に握っていた。小さな白い粒を。
その状況を理解した朋重も、はっと目を瞠り驚きの様相を見せた。
彼も千歳の手のひらから真珠の粒を抓む。目の前まで運ぶとしげしげと確かめている。彼の琥珀の瞳に、純白の輝きが映った。
「あの時、千歳が握らされたものと、そっくりだ」
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