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「それに千咲、白い着物姿で髪が長い女性が夢に出てきたって教えてくれたの。話しかけてくれた言葉が、私が知っている『保食神様』そのものだったのよ。ほら、福神様を通じて『好物』がわかっているでしょう。サクサクパイとフィナンシェが好きと仰っていたみたい。しかもこの真珠を『これからも仲良くしましょうね』と言って握らせてくれた『夢』を見たと報せにきてくれたの」
「じゃあ、千咲付きの神様って……。まさか保食神……」
夫も真珠を目の前にして打ち震えているのがわかる。
『ついに娘が神の夢を見た』。朋重も気がついた。
千歳も涙で滲みながら頷く。
「浦和家、あなたのご実家のルーツを守ってきてくださった神様が娘の神様になったのよ、きっと」
「俺の実家の――」
「川端のお家とも、もっと強くご縁が続く気がする。このお家で娘が夢を見て、お印をいただいたんですもの」
朋重も感極まったのか、千歳をそっと抱きしめてくれる。
彼も涙ぐんでいる。
「荻野のご加護様の中に、俺の実家の神が入ってくれるなんて。それも俺の娘のご加護様に――」
父親として感激しているのだとわかった。そして浦和家の男児としても、荻野家の婿としても。妻の家とこのうえなく頑強な縁続きになったと、結婚した時以上に強く感じられたのだろう。千歳もそう思う。保食神様が引き受けてくれたこと。荻野の加護がまた強くなっていくのは、この縁を大事にしてきたからだと思いたい。
「どうかしたのかい」
孫夫妻が廊下で神妙に向き合って戻ってこないことを訝しんだのか、千草祖母が様子見にとそばに来てしまった。
だが朋重がぱっと笑顔に輝き、千咲が持ってきた真珠を千草祖母へと真っ先に見せた。
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