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㉓ハマナスの祝福
賑やかな一日を終え、千歳は朋重と娘達と共に、神社ちかくの別荘へと帰宅する。
夕の色合いが薄れ、海に夜の帳が下りてくる。白い風車もゆっくりと回って、その上には薄い夜空に星が輝き始めている。
石狩別荘のリビングから見える海を眺めて夜を迎えるのも、もう何度目か。
いま、朋重と娘たちが揃って入浴中。千歳はひといきついて、リビングのソファーで夜を迎える海の移ろいを静かに眺めている。安らぐ光景に、いつの間にかうとうとと微睡みはじめていた。
夜を迎える浜辺に、福神様と保食神様が並んで微笑みかけている。
ひさしぶりにお二人が一緒にいるところを見られて、千歳も嬉しくなって手を振っていた。
『彼女に任せましたからな』
『よろしくね』
浜辺の波打ち際、さざ波の潮騒の中、福神様が千歳へと告げる。
『私たち餡子同盟を組んでるのよ。荻野の餡子が美味しいと聞きつけて集まってきたんよ』
餡子同盟?
千歳きょとんとしたままでいると、いつかと変わらずに黒髪の女神様はくすくすと静かに笑っているだけだった。
さらに福神様は急に真顔になり、千歳へと険しい眼差しを向けてきた。
『集まってきた私たちはね、紡いできた美味、それを守る気概がある者に〈さらに守れるように協力〉するだけなんよ。真摯に守ってくだされ。私たちがいなくなった時は、荻野が万民に背を向けた時――。覚えとき』
『わかりました』と千歳は心で呟き、おふたりにむけて神妙に頷き返した。
『今日も私たちの好物をありがとな。皆で堪能いたしましたからな。千歳に福あれ』
時に見せてくれる頼もしいおじ様のお顔になった福神様を見て、千歳も子供のころからの変わらぬ気持ちで微笑みを見せる。
その時だった。おふたりが『そおれ!』と両手をいっぱいに広げて、なにかをまき散らしてきた。
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