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女親を失っている分、いまは妹の姑である芹菜義母を女性として頼ってくる様子も見られるようになっていた。
でも元は他人、妹の夫のお母さん。まだ遠慮が見られる。当たり前なのだが……。
百花姉と柚希の実母は、姉妹がそれなりに育ってから他界した。姉はもう自衛官として防衛大学を卒業して、本格的なパイロットの訓練を始めたころだ。
元より自立心旺盛だった姉。人に頼られる方だった姉。だからなのか『甘える』ということが苦手だと、父の勝もぼやいている。
私は大丈夫。私は頑張れる。できるから心配しないで。
そんな風にいままで生き抜いてきたWAC(婦人自衛官)だ。
そんな姉が子育ても、少しの手助けは必要としてくれても、べったり任せる自分がどうにも許せないらしく、最近はそんな母親としての自分を持て余していることが目に見えるようになってきた。
ほんの数週間前だろうか。『柚希にばかり頼っていたら私は母親になれないから、今日はそっとしておいて!』と叫ばれ、あの優しい心路義兄が『手伝ってくれる妹に謝れ』と姉を叱り飛ばした出来事があった。
もちろん。我に返った姉のほうが自分のしたことに愕然としていて、すぐに謝ってくれた。姉妹に溝はできなかったが、その時から柚希も姉への接し方に細心の注意を払っている。そして姉も二度と、そんな態度を取らなくなった。
でもだ。そこから姉が重苦しい表情をするようになってきた。
『妹に怒鳴った自分。酷い姉』ということを苦にしている。そこからどんどんと『駄目な母親』へと結びついて、表情が暗くなり無口になっていった。
あと、ひとつ。姉が妙に意地を張っていることがある。
『自衛官の夫に迷惑はかけたくない』。
夫の心路義兄に甘えられないことだ。
柚希も夫の広海もわかっていて、でも踏み込めず、いま妹夫妻としてすぐそばで見守ることしかできずにいる。
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