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お料理好きの女性が構築してきたお洒落キッチンの素晴らしさ。それがいまは柚希が住まう小柳家のキッチンでも発揮されている。海外のカントリーを思わせるハイセンスなキッチン。いま柚希はそのキッチンを自分のもの同然で使って、義母と仲良く楽しく料理をしている。
だが元の神楽家、父と二人暮らしをしていたキッチンは、道具のみと、ごく一般的な調味料だけがそろえられている、最低限の『男主キッチン』だった。
その時、父も苦笑いをこぼしていた。
『いやいや。そりゃ、芹菜さんには負けるよ。彼女のセンスなんだから。元から乙女チックなお育ちのお嬢様だったみたいだしなあ』
そこで父が『モモも目覚めたなら、芹菜さん風に真似して増やしていけばいんじゃないか。ここのキッチンも好きに飾っていいぞ~』と付け加えたのだが、ここは男親のわからんところか。柚希は思わず父の足を踏んづけて言葉を止めようとしたが遅かった。
姉はそこでふいっとそっぽを向けて、いま使っている部屋へと甥っ子と消えていった。
父も『俺、なにか変なこと言った?』と聞かれたので――。
『モモ姉に、――いままで女性らしくなかったのだから仕方がない、今から増やせ――は、そのセンスがゼロだったと言っているのと同じだよ。そこいまお姉ちゃんがいちばん気にしているんだから』と伝えると、父はギョッとしてしゅんと頭を項垂れていた。
もちろん、いまの神楽家キッチンは女性らしさが一欠片もないのが現状なのだから『増やしていくしかない』のは正論なのだが、そこはなくてもある風にしておきたいのが『女心』!
『女心、疎くて……』と。逆に次女の柚希はそれなりに女の子をしていたので、父は女心の難しさに直面したことがないとも言えた。
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