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そうなんだよ、そうなんだよ。柚希も結婚してようやく悟ったというか。神楽家は『自衛隊モードの空気が取り囲む』実家なんだよと。
父親に姉に、義兄と、自衛官が三人も住んでいれば、そこはまさにミニ駐屯地なんだよ! と、言いたい。
がっつりと空腹を満たしスタミナをまかなえれば、それでよし。大事なのは時間を合理的に管理して、やるべきことを無駄なく遂行すること。シンプルな衣食住で充分、そこに『お花やかわいい小物や、いいにおいの生活雑貨』を選ぶ余裕は最初から削ぎ落として生きているのだから。
そして姉は初めて気がついたのだ。合理的でシンプルなものだけが正解ではないと。もっと余計と思っていたものも、心を満たしてくれるのだと知ったのだと思う。そして……。そんな女性らしさが自分にもあって、『私も女性らしいものにときめいて、そんなものを選んで、自分の結婚生活に取り入れたい』のだと。でも、いきなりすぎて、すぐにはなれない。いまは産まれたばかりの息子のことでていっぱいでそんな余裕はないと、また、身動きができないことに雁字搦めになっているのだろう。
夕日が入り込んできたキッチン。芹菜母の綺麗な白髪ボブにも、茜の色が映えてくる。義母も姉の気持ちがわかるのか、眉根を下げてさらに深いため息をついている。
「離乳食もね。こちらの小柳のキッチンで、私とユズちゃんが作ったものとか、私たちと一緒にモモちゃんが作ったものは一路君はぱくぱく食べるけど、モモちゃんが神楽のキッチンで一人で作ったものは食べてくれない時があるとまで言いだしたのよ~。それは気のせいだと思うのよ」
「そうですよね。私が作ったものだって、イチ君、ぷいっとして口を開けてくれないことだってありますもん。姉がその時、見ていないだけですよね」
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