③パイロット辞める

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「モモさん! 俺さ、部隊でのモモさんも素敵でかっこよくて憧れだったよ。制服も迷彩服も、男言葉で強いところも。だけどさ。俺がほんとうに欲しかったのは、そんな制服とか迷彩とか階級とか脱ぎ捨てた時の、『ふだんの百花さん』だったんだよ。プライベートではもっと女性らしくて思いやりがあって、家族思いで、もっと美人でクールでさ。そんな百花さんが俺に抱きついてきてくれたときの、俺の、俺の、あの時の感動とか、ぜんぜん今も変わってない。そんなモモさんだけで充分だって言ってんの、俺は! そんな素敵な家を、小柳みたいな家が俺はほしいんじゃない!」  うわ、心路義兄ちゃんってば、熱いなーと柚希のほうが頬が火照りそうなほど情熱的な叫び。でも、そんな兄ちゃんだからこそ、男勝りな姉が女性として幸せに結婚できたんだと妹として嬉しくなる。それに『そうだ、そうだ。義兄ちゃん、もっと熱いのお姉ちゃんにぶつけてやって』と、再度姉を陥落させてくれるよう、影で押しまくっている。  姉もまだ言い足りないのか、夫を睨みながらも遠慮はしないとばかりに声を張り上げる。 「夫を万全の態勢で任務に送り出せない妻になんてなりたくない。そんなの自衛官の妻じゃない!」 「はあ? ちょっと『神楽二尉』、もの申してもよろしいですかね!!」  階級呼びに切り替えてきたが、心路義兄は制服姿のまま下官として急に姉に刃向かっていこうとしている。今度の柚希はハラハラ。姉は若干、きょとんとしていたが、いきなり『二尉』の立場におかれて眉をひそめている。 「な、なんだよ。東三尉……」 「自分を馬鹿にするのやめてくれますか~? 自分はですね、これでもレンジャーで空挺団所属で、これから冬レンジャーも取得しようとしているんですよ」
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