③パイロット辞める

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「そ、そうだよな? そ、それが?」 「あのですね、訓練もそうですけれど、有事のときだって満足に眠れるもんじゃないんですよ。どんなときも万全に? 違うでしょ! 有事はいきなり! 有事任務展開中も、どんな状況でも気張ってお勤めできるのが自衛官! おなじですよね。子育ても家庭内の大事なミッション。夫が万全じゃない? くそくらえっすよ。息子の夜泣きで眠れなくても、父親をやるんですよ。任務遂行と一緒。むしろそれ以上!! 俺から言わせれば、妻がそこまで切羽詰まっているのが有事。有事にしちゃったろくでもない夫で父親になんかなりたくないって言っているんです!! 俺のこと、優秀な隊員だと男だと認めてくれているなら、ちゃんと参加させてくれますよね。この子育てミッションに、任務に!!」  やっと姉がハッとした表情を見せた。  心路義兄が姉の心の重しを押し除けようとしている。あと少し? 柚希はドキドキしながら、一路が泣き出さないようそっとそっとあやしつつ見守り続ける。  だが姉はまだ言い足りないのか、でも、先ほどよりも柔らかく落ち着いた声色で吐露し続けた。 「ひとりで子育てをしなくちゃと意地を張っていたことは謝る。でも、それだけじゃない、くつろげる家庭をつくってやれないだけじゃない。私がパイロット人生を貫こうとすることは、一路の子供時代を犠牲にしてしまうかもしれないとも言ってんの。でも、ここまで頑張ってきたんだよ!」 「だから。モモさんが仕事で家にいられないときは俺が――」
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