③パイロット辞める

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「二人一緒に招集されたら? 災害だけじゃないよ、有事の時に、私も心路も、一緒に部隊に招集されたら、一路がひとりきりになってしまう。もし自分の部隊がある場所が被災地だったら? 一路にひとりきりで家で留守番していろと? 柚希と広海君が、一路を迎えに行けない状況だったら? 両親がいない時、一路はどうしたらいいの? だったら、私はやっぱりパイロットをやめたらいい?」  そこでシンとした静まり返った。  姉が思い詰めていた様々なこと。それはいまだけじゃない。ずっとずっと向こうにあるかもしれないリスクを考えていたのだ。  それには心路義兄も絶句していた。二人とも自衛官だ。なにかがあれば家族を置いて任務優先になる。それが夫と妻同時に起きたら? 預けられる妹夫妻がそばにいなかったら?   急に姉の頬に涙が流れ始める。泣きながら頬を濡らしながら、姉は心路義兄に告げていた。 「ごめん。答え、いま出たかも。私、パイロットやめる。そんな状況で息子を置いてヘリコプターの操縦はできない、きっと」  唐突な姉の決断に、柚希は血の気が引く思いで硬直した。  心路義兄も茫然としていた――。なにも言い返せないのだろう。  なにかあったとき二人同時に招集をされて、誰も頼る家族もいない土地にいた時、子供をどうするか。その返答がすぐに出来ないから……。  柚希も頭の中で、引き留めるなにか、言葉を探ってぐるぐると考えていたが思いつかない。  だが柚希は焦っていて気がつかなかったのだが、夫の広海がいつのまにか、廊下の向こうにあるキッチンの入り口ドア前に立っていたのだ。
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