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「えっと、広海君。だから私は一路が大事だから、いま辞めたほうがいいと思ったんだよね。いざというときじゃ遅くない?」
「いざという時になってから、パイロットを辞めればいいと言っているんですけれど」
「災害や有事が起きたときにってこと?」
「それが例えのケースであるなら、そうですね」
「出動を断れってこと?」
「前もって、そのケースについて上官と取り決めていなければ、放り投げるしかないですよね。でもその時になれば、無責任でも子供を選ぶ母親になる、という覚悟を決めることができたんですよね」
「いや、その時に無責任に放り出すのが嫌だから、そうなる前にいま辞めるって……」
「――『その時』までに、回避ができる時間がいまはまだありますよね。『前もって』が抜けていると俺は感じましたけど」
広海の言葉に、百花姉と心路義兄が顔を見合わせる。ふたりとも、またもや目が覚めたかのように茫然としていた。
「そうだ、モモさん! 広海君の言うとおりだ。『前もって』が抜けているよ!」
「私も思い詰めすぎていて、そんなことも考え及んでいなかった。バカだ!」
姉が頭を抱え、ショートヘアの黒髪をくしゃくしゃとかき乱した。
「辞める覚悟は、その状況になる時に決断すればいいのに。そうだよ。私、いざとなったらパイロットより一路を選ぶ。それは決定事項だ。心路を送り出しても、私が家庭を守る側に回る。でもその状況になったときのための、あらゆるケースを想定した『準備』も必要だったんだ」
やっと姉らしい冷静さが戻って来たように柚希には見えた。
姉の視界が開けたことに、広海もほっと表情を緩めたのがわかる。
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