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今日は黒のスリーピースのスーツを凜々しく着込んでいる夫が、いつも以上に頼もしく見える。彼が働く女性のことを思いやれるのは、荻野製菓で跡取り娘の千歳お嬢様と同期であること、また、いま現在、お嬢様の父親である遥万社長の秘書をしているから、女性優位の会社づくりにさらに意識を傾けているからなのだと思えた。
姉もそんな義弟の気遣いが心の奥まで響いたのか、またぐずぐずと鼻をすするほどに泣き始めた。
今度の涙は、心の縛りが解けた安堵の涙だと柚希は感じる。
「ありがとう、広海君……。もっと、はやく、……皆に私の気持ちを話せばよかった……」
「いいえ。柚希から聞いていましたから。お姉さんは責任感が強くて、いつも人を守る側の人。自衛官にぴったりな人なんだと。部隊でも他の女性隊員を守るために奔走することもあったそうですね。でも……。だったら、お姉さんが弱った時は誰が守ってくれるんですか。心路さんのことも同じです。俺はそれこそ、自分を含めた『家族』だと思っています。特に、自衛官の方と家族になってから強く感じるようになりました」
民間企業勤めの義弟にそこまで言われ、姉の百花と心路義兄がそろって胸を強く打たれたかのように、感涙の顔をそろえているが見えた。
柚希もだった。妻の家族を大事に想ってくれている言葉に涙が滲んでくる。
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