⑥微笑むあの人

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 新築祝いに来てもらうことが決まった時、父の勝が口を酸っぱくするほどに『館野家の事情』を説いて、柚希と広海、そして芹菜義母に向かって『絶対に拓人君の前で間違えるな。でも察して行動すること』と叩き込んできたことを思い出す。  まだ小学生になったばかりの拓人君が岳人パパにいちばんに甘えていて、実父である館野三佐のことは『さんさ』と呼んで『パパの親友』と認識していたあのころ……。その後、寿々花さんの出産を機に、きちんと血縁の兄妹であると認識させるために拓人君に真実を告げたという話も、館野夫妻から直に報告を受けていた。  だから今日はもう、『ほんとうのお父さん』と『育てのパパ』として真実のままに接することができるようになっていた。  ただ……。遠くからそれとなく事情を察していただろう百花姉と心路義兄は、今回が初めて『館野家の事情』に目の前で触れることになる。  同期である姉も『婚約破棄と未婚の父になったという噂は聞いていた。だが噂だからこそ流して知らぬ顔を続けてきた』と言っていた。後輩で下官である心路義兄など『触れるのも畏れ多い! 右から左に流して無いことにしていた』というほどに、デリケートに遠ざけていたとのこと。  元教官だった父がご本人と親しくしていたため、姉自身は館野三佐が『未婚の父』であることは判っていて、でも、もし会うことがあれば『子供はいない新婚三佐』として接する心積もりを整えていたらしい。  だが今回、父から『もう拓人君も真実を理解しているからそのつもりで』というお達しが姉夫妻にも告げられた。
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