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「私が表立って『退治した』みたいに言わないでよ。館野君が影で『退治の暗躍』していたの知ってるんだからね。あの時からずっと知らない顔していたけど、今日こそ、あの時の真相をゲロってもらうからな!!!」
また館野三佐がぷいっと素っ気ない横顔を見せて、姉をあしらっていた。
同期生が数年ぶりに再会したと思ったら、この騒々しさ。
奥様の寿々花さんも目が点になっているから、予想外の夫を見ている気分なのだろう。
柚希も同じ気分だ。
うわー。こちらは心路義兄とはまた違う意味で、姉を制しているなあと柚希は呆気にとられていた。
柚希には素敵なお兄さんでも、館野三佐は自衛官となると冷たい雰囲気を放つ怖い人というのは本当かもしれないと思わせるやり取りだった。
「まあまあまあ。鬼退治の話はな……。俺もそれなりに聞かされているからさあ。ずいぶん昔の話じゃないか。今日は同世代のパパママとして、仲良くな、な、」
元教官の父が自衛官だったら『やめい』と一喝できていただろうに、ただのお父ちゃんだとおろおろしているだけになっていた。
それでも館野三佐も恩師の目の前だからと、またにっこりとした笑顔に戻った。
「俺の娘の清花。二歳になったんだ。モモタロウのところは男の子か。パパママになったんだな、俺たち――」
娘を抱く父親に、息子を抱く母親。
そうして同期生が向き合った。
そこで百花姉も肩の力が抜けたようだった。
「……館野君がそんなふうに笑うの、初めて見たよ」
「そっか。俺もモモタロウが女らしくしてんの初めて見たよ」
『やっぱ気にくわない』と姉がまた館野三佐に立ち向かおうとしたので、心路義兄が必死に止め始めた。
「ヒガシがそうしてやってんのかな。ヒガシだけの彼女だもんな」
そうして館野三佐が、大人しくしているだけの心路兄ちゃんににっこり笑顔を見せたのだ。
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