⑧しあわせのカタチ

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 目上のふたりだからこそ切り込めることだった。  そしてその向こうに、父と芹菜義母は『良さそうな女性だけれど、また岳人君と拓人君が傷つくことが起きないか心配』という本音を持っているのだ。  それは柚希も同じだ。元婚約者だった男と、婚約者だった男から妻になる女性を奪ってしまった男という仲だったのに、ひとりの男児を育てることを第一として築き上げてきた大事な関係だ。寿々花さんは最初から見守ってきた女性で、訳ありの男性ふたりが決めたことに寄り添って理解し歩んできてくれた時間がある。  お嬢さんの清花ちゃんが生まれる時も、岳人パパがそこに居て良いのかと思い悩み、いろいろあったとも聞かされている。  そこに、その歩みを耳では聞いているだろうが、まったく知らないと言ってもよい女性が入ってくるのだ。結婚生活となると、また事情が変わってくる。拓人君にとっては『他人の家庭』となっていくだろう。そこに子供が産まれたら……? 今度こそ、拓人君と岳人パパのお別れ?  大人たちは一瞬でそこまで思い至り、岳人パパと拓人君の絆を案じているのだ。  これまで『女性は懲り懲り、結婚なんて二度としない。館野一家と拓人と共に歩む』と豪語していた岳人パパ。その心情を覆したほどの女性は、どのような人なのか? 柚希だって気になる。  そこで岳人パパも、親しくしてお世話になっている教官とママには真意を伝えておこう決意したのか、穏やかな笑みを浮かべ眼差しを伏せ話し始める。 「結婚はしないつもりです。内縁というか、事実婚というか。その形で暮らしていく心積もりです。彼女もバツイチなので――」  父も芹菜義母も『そうだったのか』と、案じはしたが『二人の問題』とそれ以上の心配はいらないと口をつぐんだ。
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