⑨同期の疎通

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 なのに。住所不明で返ってきてしまったのだ。実家ごと移転したことになってしまう。驚いて村雨女史に報告をすると彼女も調べ直してくれた。  その結果、『家の事情で引っ越しをしたみたい。萌子、同期とも連絡が取れにくいと随分前にぼやいていたけど……。そのまま疎遠にしたみたい』ということが判明した。  一時期、スマートフォンの不具合なども含めて、どうしても萌子と連絡が取れなくなった時期があったが、彼女もどこかで諦めてしまったのだろうか。  でもおなじ会社で働いているのだ。まだ。  萌子から柚希や村雨女史、そして同期にどこへ移転したか知らせていないことになる。そして会社には住所変更を申請しているだろうが、そこからはもう個人情報。たとえ同期からの問い合わせであっても、会社は答えてくれないだろう。  萌子は萌子で、もう問題は起こさずに気もちも落ち着いて、でも新しい関係を紡いで楽しくしているのかもしれない。  それならそれでいいと柚希も思う。みんな、結婚したり管理職になったり、三十代になって環境が変わった。誰もが独身の気ままさでいつでも集まれて、力ない若さを励まし合う時期はもう過ぎ去ったのかもしれない。  萌子とは縁が切れてしまったように思えることがある。  いつか柚希が夢で見て聞いた『声』、荻野のなにかがこれまでもいまも、そうしてるのだろうか。  おなじ会社で勤めているのに、会えそうで会えない同期。
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