⑩新しい娘たち

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「そうです。北海道の皆さんに乗ってもらう企画です。習志野から私が操縦していた機体がやってくるそうなので。復帰を兼ねて操縦して欲しいとの指名をいただけたんです。あ、そのまえに、操縦の勘を取り戻すために何回か訓練飛行をする予定ですけれどね。ママパイロットも育休明けても働いています――という広報も兼ねているそうです。ですから安心して乗って欲しいです」 「……でも、私、足……」 「いえいえ、ママ。チヌークの大きさも機内も、もう存分にご存じでしょう。あんなに乗り物雑誌を買い込んで、勉強してくれていたじゃないですか。いつか乗ってみたいって言っていたでしょう。チヌークの大きさも座席の広さも知っているでしょう。ちゃんと乗れますよ」  わかっているけれど、芹菜義母は戸惑っているばかりだった。ユズちゃんどうしよう……ではなくて、『私なんて』という顔だと柚希は気がつく。久しぶりに見た義母の顔だった。車椅子に乗って、息子の付き添いでやっと外出ができる、出会った頃に見せていたなにもかも諦めていた芹菜さんのお顔だった。  義母が怖じ気づいている。そこに『搭乗して私のせいでなにかあったらどうしよう。モモちゃんに迷惑がかかっちゃう』と案じていることが通じてくる。自分は『お荷物』というあの頃の精神がぶり返しているのだ。  そんな義母に柚希ははっきり告げる。 「行きましょう、お義母さん。私と広海君も一緒にいれば大丈夫ですよ。それに姉は百戦錬磨の婦人自衛官ですよ。トラブル起こればこそ、動ける訓練をたくさんしているんですから!」
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