⑩新しい娘たち

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 そこで芹菜義母は堰を切ったように、涙を蕩々と流しながら嗚咽を漏らしたのだ。もう感動しきりで、喜びの許容範囲を超えて感情コントロールができなくなって号泣しているようだった。 「お義母さん……」 「芹菜ママ、泣かないで――」  柚希と百花姉はともに、華奢な芹菜義母を囲んで抱きしめた。  制服姿の姉もちょっぴり涙ぐんでいる。 「搭乗は、北国がいちばん爽やかな九月だよ。ママ、楽しみに待っていて」 「う、うん。楽しみ。モモちゃんのパイロット姿と撮影、一緒にしてね」 「もちろんだよ、ママ」  芹菜義母が、自衛官の制服へと頬をもたれて泣き崩れるのを、また百花姉がしっかり笑顔で抱きしめている。  義母は娘が欲しかったが姉妹との出会いでそれを叶え、姉妹は母を若くして失ったが、家族が縁を結んだことで再度母性を得られた。そんな気もちになれるいまだった。  女三人で感極まって何度もぐずぐず泣き合っていると、颯爽としたスーツ姿の広海が帰宅してきた。  リビングのドアを開けるなり、キッチンの入り口、ダイニングテーブルのそばで女三人抱きあって涙ぐんでいるので、ギョッとした顔をしている。 「え、なに。なにかあった? え? 百花義姉さん、制服だし――」  女三人で顔を見合わせ、揃って目尻の涙を拭って笑い合う。  夫には柚希から報告する。 「聞いて、広海君。あのね――」  姉の操縦で、『みんなで空に行こう!』。  柚希の報告に、広海も仰天し、でも、母親がどうして涙ぐんでいるのかもすぐに察したようだった。  彼がいつものように、優しい眼差しで母親へと歩み寄り、寄り添った。
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