⑩新しい娘たち

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「この広報飛行観覧を終えると、百花は一度、丘珠駐屯地航空隊の配属で職務復帰をするので、育休中の御礼をママにするんだとはりきっていましたよ。私はチヌークは何度も乗ったことがあるので、今日は広海君と柚希と遠慮なく楽しんできてくださいね」  父は招待枠の中に入れなかったので芹菜義母が気にしていたのだが。そもそも、仕事で嫌というほど航空機からロープなどで降下してきた元レンジャーの父だ。『もういい、充分』という父の言葉に、芹菜義母もそれならばと気負いなく出掛ける準備を整えられた。  父に見送られ、柚希は夫の広海と一緒に芹菜義母をサポートしながら車に乗り込む。 「なにも起きませんように……。お父さんも一緒に行きましょうね。私たちの新しい娘なのよ」  今日、芹菜義母の胸には事故の時に他界してしまった小柳義夫の写真が忍ばせてある。そう呟きながら、芹菜義母自身は義足と切断された足とのつなぎ目を何度もさすっていた。  今日は痛くなりませんように。疲れませんように。モモちゃんに迷惑かけませんように。モモちゃんの操縦になにごとも起きませんように。そして、お父さん。一緒に行きましょうね――。そう呟いている義母をそっとして、運転席には息子の広海がハンドルを握って発進をしようとしていた。  助手席にいる柚希は、そんな夫をちょっと案じて見つめている。母親の独り言に、彼が胸を熱くして目頭も熱くしているのがわかるほどだった。  柚希も夫・広海の苦労を思う。  新卒という若い年頃に、両親が事故に遭い、自分たちを一番に守ってくれていた父親を失った。優しく息子を包み込んできた母は片足を失い車椅子生活になった。母ひとり子ひとり、広海が小柳家を支えてきたのだろう。彼の二十代はそんな日々だったはず。
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