⑪ふたりきりで――

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 そのなかで、ひとり細身に見える女性隊員をみつける。姉の百花だった。姉も家族が案内されて到着したことに、満面の笑顔をみせた。 「ユズ、芹菜ママ、広海君!」  元気いっぱいに手を振ってくれている。  柚希にとっては久々の迷彩服姿の姉だったが、芹菜ママ広海は動画でしか見たことがないので、少々怖じ気づいているように見える。凜々しい制服も、男勝りなモモ姉も見てきたが、ほんとうにほんとうにパイロットの準備をしている姉を目の当たりにして戸惑っているようだった。  まるで別人か、遠い存在の女性が目の前に居る……みたいに感じているのだろうか。柚希にはそう見えた。 「お義母さん。行きましょう。広海君も!」  義母と夫の手を取って、柚希から元気にひっぱっていく。  そばで『あれ、どうしたのかな』と様子を窺っていた館野三佐もホッとした様子で後をついてきてくれる。 「お姉ちゃん、おじゃまします」 「待っていたよ、ユズ。ちゃんと連れてきてくれたね」 「モモねえが別人に見えるのか、芹菜ママも広海君もちょっとびっくりしちゃってるみたい」  引っ張ってきた二人の背中に周り、今度は義母と夫の背中をぐいぐいと柚希は押す。 「チヌークと、パイロットのモモ姉ですよ。ほら」 「ちょっと、柚希。押すなよ」 「ユズちゃんったら。初めての駐屯地でドキドキしちゃうの」  女性パイロットの佇まいでいる百花姉を目の前に、照れているかのような義母と広海。だが姉は嬉しそうに優しい笑みを浮かべている。 「いらっしゃいませ。芹菜さん、広海君。やっとやっと、ママをチヌークに乗せてあげられるね。楽しんでいってね。今日は快晴だから、上空は景色が綺麗だと思うよ」
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