⑪ふたりきりで――

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 そして姉は、いつもの快活さを潜め、しおらしい眼差しに変わった。  どこか潤んだような目を見せて、芹菜義母を真っ直ぐに捉えている。 「ママ、安心して乗ってね。今日は私が『お母さん』に恩返しをする日なの。空まで一緒に行こう」 「モモちゃん……」 「芹菜ママがいなければ、私は一路の母親として頑張れなかったよ。ほんとうに、ありがとう。おかげさまで、子供がいてもパイロット――に戻れそうです」  今日は心が敏感になっている芹菜義母が、百花姉につられて手のひらで顔を覆い、また涙を流している。  百花姉もちょっぴり目尻を光らせて、指先で拭っていた。 『東、搭乗時間だぞ』  離れたところにいた姉の上官さんが呼んでいる。 「習志野で同乗している先輩で上官の市川三佐。おなじ官舎で奥様にもとてもお世話になっていたんだ」 「まあ、そうだったの。頼れる先輩がいらっしゃったのね。ご挨拶しなくちゃ」  芹菜義母が義足で柔らかい芝の地面を一歩踏み出そうとしたが、館野三佐がそれを止めた。 「いえ、芹菜さん。そろそろパイロットもお客様も搭乗しないといけないので。それはまた帰ってきてからにしましょう」  滑走路の離陸スケジュールはタイトとのことで、百花姉は『じゃあ行くよ。楽しんでね』――と笑顔で離れていった。  チヌークコックピットのドアを開けて、上官の男性と颯爽と乗り込む姿を柚希は見送る。 「今日は自分が芹菜さんをサポートするお役目をいただいたので、一緒に搭乗しますね」 「あら。将馬さん自ら? いいのかしら」
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