⑪ふたりきりで――

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「もちろん。俺にも御礼させてください。拓人に良くしていただいて……。父の日に初めて拓人から手作りケーキをもらった幸せ、それは芹菜さんのおかげでしたから。いつも拓人を気遣ってくださって、ありがとうございます」 「まあ。こんな素敵な三佐さんがエスコートしてくれるだなんて。贅沢ね」 「なにかあっても、俺が芹菜さんを背負って脱出しますよ。レンジャーですから任せてください!」  優秀なレンジャー教官である本人からの頼もしい言葉に、芹菜義母も嬉しそうに微笑んでいる。  でもそこでふっと義母の眼差しが蔭る。 「思い出すわね……。小樽のトラットリアで、急に出会ったの。元レンジャーのパパさんと、かわいいお嬢さんに。お嬢さんが息子の同僚だなんて……。なんて思いがけない出会いだったことか」  柚希と息子の広海はもともと同僚だったが、お互いに親子で食事にきているところでばったり遭遇したのは、たしかに『思わぬ出会い』だったと柚希も思う。 「知らない世界だった。自衛隊さんとか隊員さんとか、レンジャーさんとか。すごかったの。もうそれをすることが使命で当たり前とばかりに。決断と行動が早くて、テキパキしていた。ひょいって私の車椅子を片肩に担いじゃって。軽やかに階段を上ってくる勝さんの姿に、かわいい笑顔でいちばん眺めがよいテーブルを勧めてくれるユズちゃん。そのあとも、こちらの戸惑いなんてなんのその。からっとした笑顔で『水族館に行こう』なんて言ってくれて――。何年ぶりの水族館だったことか……」  しんみりと呟く芹菜義母の背後では、チヌークの後部ハッチが開き始め一般客たちの歓喜が聞こえてきた。  それでも芹菜義母は続ける。
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