⑪ふたりきりで――

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 機内に入ると、民間機とは異なる無機質で機械的な座席が壁一列に並んでいる。最低限のシートカバーとベルト、ヘッドホンが装備されている。  サービスではない。任務のため、仕事のための飛行機なのだと改めて感じる。  機内に入ってすぐ、館野三佐が『広海君、ちょっと……』と夫に耳打ちをした。  なにかをそっと夫の耳元に囁くと、気のせいか、広海がやや気恥ずかしそうに、うつむいたように柚希には見えた。  館野三佐が芹菜義母を笑顔でエスコートし、広海は柚希の肩をもって、それぞれが背を向け合った。  芹菜義母はコックピット近くの前方席へ。広海と柚希は後方席へと向かっている。 「え、お義母さんは?」 「館野三佐がきちんと付き添ってくれるって」 「え、でも……」 「そのために来たみたいだよ。百花姉さんに頼まれていたんだって」 「でも、私たちもそばにいたほうが」 「それも。百花姉さんと将馬さんが示し合わせてくれたみたいだ」 『どういうこと?』。柚希は訝しいまま、首を傾げて長身の夫を見上げる。 「今日は、俺と柚希。ふたりきりで楽しんでほしいんだってさ」 「え! お、お姉ちゃんが、そんなことを」 「モモタロウから頼まれたから、気にしないで芹菜さんを任せて欲しいだって」  離れた時点で、芹菜義母も気がつくだろうに。いままで必ずそばにいた息子と嫁がいなくて心許ない気持ちにならないか。柚希は案じたのだが。 芹菜義母は館野三佐のエスコートで、横長一列の先頭へ。つまり、チヌークのコックピット、パイロットの座席が見える位置へと座ったのだ。  その隣に館野三佐が付き添うように座る。周囲の一般乗客に『義足の方なので付き添いです』と説明をしていた。  芹菜義母はそこでやっと、息子と嫁と離れた席に案内されたことに気がついたようだった。
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