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チヌーク観覧飛行を終えてしばらく――。
また北国が真っ白に染まる冬を迎え、また雪を見送って。遅い春がやってきて蝦夷山桜が咲いて、ライラックが北国の青空を彩り、ニセアカシアの白い花が鈴なりに咲いて、甘い香りが漂う。
ポプラの綿毛がふわふわと、あたたかな昼下がりに庭に舞う季節を過ごして。もうすこししたら、芹菜義母が育てている百合が満開を迎える。
ポプラ並木に広大なタマネギ畑、百合が咲く公園が近く。
ゆったりとした郊外の二世帯住宅で、今日も柚希はたのしく暮らしている。
ユズちゃん、カリンちゃんが泣いているわよ!
「はーい、いま行きます!」
庭にいる義母の声に我に返り、ランドリールームにいた柚希は急いでベビーベッドまで。
わんわんと元気いっぱいに泣いている『娘』を見下ろして、にっこり微笑む。
「花梨ちゃん、おなかすいたのかな」
小柄な身体で柚希は娘をベッドから抱き上げる。
百花姉がプレゼントしてくれたあの日。チヌークでフライトをした日の後。夫の広海と子供を迎え入れる決意をした。
決意まで時間がかかったのは柚希も働いていたし、二世帯生活が落ち着くまで、とか、そんな様子見をしているうちに、百花姉が里帰りをして……という日々だった。子供はそのうちに――だったのに。あのフライトで、夫の広海と向き合えたから掴めた幸せ。
姉と芹菜義母からのプレゼントだったんだと思う。あのフライトは。
妊活を始めると初雪が来てすぐに妊娠発覚。まだ姉も心路義兄も札幌市内勤務で実家に住んでいたので、力になってくれた。
ちいさな孫がいっぺんにやってきて、父もてんやわんや。
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