⑫マザーズデイ・フライト!

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 小柳家のリビングに、夏の遅い夕日が差し込んでくる。  おなかいっぱいになって満足そうに頬を膨らませている娘にも、優しい茜が降りそそぐ。 「ただいまー」  夫が帰ってきた声が聞こえてきた。  今年も凜々しいクールビズのビジネススタイルに整えている広海が現れる。片手にはかわいいショップバッグを持っていて、それを柚希へと掲げる。 「また千歳がおさがりをくれたんだよ」 「え、また!? 千歳お嬢様のところのおさがり、いいものばっかりなのに」 「姉妹で揃えたものもいっぱいあって、ちょっとしか着ないでサイズアウトしたものけっこうあるから、使って欲しいってしょっちゅう持ってくるんだよ」  リビングのソファーで授乳を終えたばかりで、柚希の腕にはちょうどおめめぱっちり開いている娘がいる。広海がそれに気がついた。 「うわっ。今日はパパのただいまの時間に目覚めていたんだ」 「パパに会いたかったのかな?」 「花梨~。ただいま~。パパ、帰ってきたぞー」  柚希のすぐ隣に、すらりと背が高い広海が腰を掛ける。  茜に染まる中、小さな娘を挟んで柚希と広海は肩を寄せ合う。 「だんだん、柚希ぽい顔になってきたな。ママ似かな。ちいさくてかわいくて、どこか逞しい。そんな女の子になってほしいな」 「……逞しかったんだ、私」  初めて言われた気がして、柚希はぎょっとした。 「小さな身体でかわいい見た目だったけど、すごく頑張り屋さん。周りへの気配りがよくできて、一緒にいると安心するんだ。そんなママがパパとばあばを支えてくれていたんだよ。逞しいだろ」  娘のほっぺをつんと指先でつついて、広海が笑う。 「花梨も、そんな女性になってほしいよ」 「私は、芹菜ママみたいになってほしいな」
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